【本】21世紀の妊婦でよかったと心から思う『赤ちゃんの科学』

図書館に行って目当ての本がなかったので、似たような題名の本を借りてきました。

赤ちゃんの科学 ヒトはどのように生まれてくるか

赤ちゃんの科学 ヒトはどのように生まれてくるか

 

 

 全体的にかなり医学的な用語も多く、やや難しめの内容と感じました。

 

前半は産科の歴史に関する内容が中心。

今でも出産は命がけな場面もありますが、昔は今の比じゃなかったことがわかります。

そりゃ、そうですよね。エコーのように子宮の中の状態や赤ちゃんの状態を見ることもできないし、ましてや消毒技術や抗生物質のような医学的技術や知識もまだない時代に妊婦のおなかを切って赤ちゃんを取り出すなんてことを考えることもなかった時代があったのです。

逆子のような難しい出産ではお母さんが亡くなるか、赤ちゃんを犠牲にするか、最悪2人とも死んでしまうか…。

たくさんの妊婦さんと赤ちゃんの犠牲があって、現代のかなり安全な出産技術があるのだと考えさせられます。

 

後半は赤ちゃんの五感の発達など、赤ちゃんの不思議に関して。

今ではお腹の中の赤ちゃんも音を聞いていたり、羊水の匂いや味を感じたりなどかなりお腹の中で五感を発達させていることが当たり前の知識のようになってきていますが、このようなことがわかり始めたのはつい7、80年前の事のよう。それまでは、胎児は何もできない存在と考えられているのが科学者たちの常識だったようです。

でも、お母さんたちは薄々気づいていたようです。大きな音などに反応して動くお腹の中の赤ちゃんの存在を直に経験しながら。「赤ちゃんは聞こえている」と。

妊娠後期の胎児が一日中聞いても決して飽きない音がある。ママの声だ。…胎児はどんな音よりも、ママの声が好きらしい。妊婦が話し始めると、お腹の子の動きが鈍くなり心拍数が下がる。…これはだまって何かに集中している兆候である。…胎児はママが話す内容でなく、おしゃべりのリズム、音程、音の上がり下がりに耳を傾けている。(p.304)

お腹の赤ちゃんにも順応が見られ、知らない音には興奮して心拍数が上がるけど、しばらくすると慣れてしまうらしい。でも、ママの声は別物らしい。

赤ちゃんは、ママが話しかけてくれるのをいつも待っている。そして話しかけられたら嬉しいみたいだ。なんだか、そんなことを想像すると、こちらも嬉しくなるな。

 

あと、私が出産予定の病院ではカンガルーケアを取り入れているのだけれど、それに関する記述もあった。

新生児が生まれた日にみられる素晴らしい瞬間のひとつに、人間の都合でなかなか見られなくなったものがある。現代人は赤ちゃんが生まれると体重や身長を測ったり、家族で順番に抱っこしたり、瞬きや驚いた反応を逐一撮影したりするのに大忙しで、他の哺乳類や類人猿だったヒトの先祖とのつながりを実感させてくれる奇跡的な瞬間を見ないまま終わってしまう。生まれたばかりの赤ちゃんを、ママのおなかの上にのせてしばらく放っておけばすごいことが起きるのに。

 

赤ちゃんは初めお腹の上で目を見開き、ママの顔、特に目と唇をまじまじと見つめ、声にじっと耳を傾ける。2,3分ほどしたら、今度は唇をなめたり、よだれをたらしたり、口の方を忙しく動かし始める。それから渾身の力を振り絞り、ママのおっぱいに向かってゆっくりと這い出す。…たびたび指をしゃぶったり、においをかいだりして休憩し、次の匍匐前進のためのエネルギーを蓄える。生まれるためにエネルギーを使い果たした赤ちゃんにとって、これは大変な作業だ。それでも一息いれた後は、またロッククライミングに戻っていく。

 

30分以上かかることもあるが、赤ちゃんは必ずママ山の頂を征服する。…30分もしないうちに、自分で食べもののありかを発見し、手に入れる方法を考え、もっと欲しいときに頼れる人を見つけることもできた。この旅の道中で、赤ちゃんは五感をすべて使っている。子宮の中で学んだ感覚を頼りに、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚をフル稼働させてママのおっぱいに到着したのである。(p.314)

カンガルーケアについては「そんなものがあるのかぁ」と母子のスキンシップぐらいにしかとらえていなかったのだけど、この部分を読んだときは『こんなに深い意味があったのか』と思って感動してしまった。

赤ちゃんは弱いながらも自分の力で生きるために、お腹の中でずっと準備をしているのだね。

 

そして、カンガルーケアでは赤ちゃんのこんな健気な姿も。

新生児たちは、子宮の中の懐かしい家を思い起させる羊水の匂いが大好きだ。ママのおっぱいに向かう途中でよく動きをやめ、手の匂いを嗅いだり、なめたりするが、この時赤ちゃんは子宮にいた時のことをなつかしんでる。慣れ親しんだ羊水の匂いと味に触れて、心を落ち着けているのである。(p.318)

10か月を過ごした心地よい空間にお別れを告げて、新しい世界に飛び出した赤ちゃんはさぞかし心細いのだろう、ということが想像できる。まぶしい光、直に聞こえてくる色んな音、いろんな匂い、羊水に守られていない体は重力の影響を受けて重たいかもしれない…そんな空間に急に放り出された赤ちゃんを支えるのは自分の体にまだ残っている懐かしい子宮の名残り。なんだか、そんな光景を目にしたら涙が出そう。想像するだけで、胸が熱くなる…。

驚くことに、お母さんの乳首は羊水とそっくりの匂いの化学物質を分泌するらしい。赤ちゃんはこの大好きなにおいがするものが、すぐ近くにある!ということに気づき、においの出所を探し続け、やがてお母さんのおっぱいにたどり着くのだそうだ。

やっぱり、お母さんの体はすごいなぁ。

 

赤ちゃんに会えるのは楽しみだけど、またそれとは違って出産に関する見方が少し深まったというような…。

ちょっとボリュームがあった本でしたが、出産前に読んでよかったです。